ネーミングと色紙とコンセプト

先日、40代の経営者と話をしていて思い出したのが色紙の話です。
その日は会社のネーミングとコンセプトが話題だったのですが、彼は自分が創業する前に勤めていた会社の社長をとても尊敬し、また憧れてもいました。ところが自分が経営を始めてから「自分はあの社長のようになりたいか?なれるか?」と考えるとどうも違うようだと考えるようになりました。
「先日の澄さんからの質問の○○さんと僕の違う点なんですけど。。。考えても分からない」
「では質問を変えるね。彼が社長として目指す事は?」
「あー、それは自社の製品が脚光を浴びて市場を制覇すること」
「ではあなたの会社が目指すのは?」
「あっ、僕の場合は違います。社員が定着して皆の夢を実現できることかな?」
「ほら、違うじゃない。良い悪いじゃなくて向き不向きがね」
「そうですねーー。彼の場合はテクノロジーオリエンテッド、僕の場合はヒューマン・オリエンテッドと言ってもいいかな!会社のロゴにHuman Orientedとでも付けちゃおうかな!」
「それは止めた方がいいよ」
「どうしてです?」
それから彼に話した事は、私がかつて京都に行く度にお目に掛かっていたある茶人のことです。その頃すでにご高齢でしたが、とても茶目っ気のあるおじいちゃまでちっとも堅苦しくないのです。ある日の話題に「色紙」の話がでました。
「あのね、いろんな偉い人たちが色紙を求められると何か文言を書くでしょ?あれは何を書いているのかわかりますか?」と聞かれるので「自分が励まされた言葉とか、人を勇気づける言葉とか・・・」と答えると「あれはね、その方が『そうなりたい』事を書いているんですよ、ほっほっほっ」と愉快そうです。「その人たちはそれができていないから」という皮肉を含んでいる事が目の色で分かります。この話を披露して。。。
「貴方の体質がすでにHuman Orientedなんだから、人が大事にしてくれそうだと感じて入社してくる訳でしょ。○○さんの所は、自分の技術を生かせそうだ、という人が集まる。それをコンセプトで掲げちゃうと『当社は人間を大事にする会社を目指します』になってしまうの。『本質』と『目指すもの』の違いは大事よ。会社のCIをみると、掲げているコピーと実体がまるで違う事があるでしょう?」
「ネーミングは『何をする会社』か、コンセプトは『何を目指しているか』を社会にはもちろん全社員が誇れるものにしたらいいですね。そして本質は醸し出すものなのかな?」
ちなみに上記の茶人のおしいちゃまにその時、「先生も色紙を求められますでしょう?何をお書きになるのですか」と伺いました。
「わたし?『ん』って書くんです」